フィーダ放射の理論的解析
                   
著作:Vadim Demidov
                                    翻訳:JA1SCW 日下 覚

はじめに

筆者は
2004年12月号で「MicroVertの製作」と題した記事を紹介いたしました。それ以前に7/10/14Mhz用のEHアンテナを合計で6本製作しましたが、納得の行く性能と安定性が得られず苦労していました。Web上でEH関連記事を模索していたところDL7PE(Juergen Schaefer氏)のMicroVertの記事と今回紹介するこのVadim Demidov氏の記事に遭遇しました。DL7PEの記事は一部キーパーツと放射原理の記述について曖昧であったが、この記事はDL7PEの放射原理とキーパーツについての曖昧な説明を補完しており、MicroVert(以下MV)は試作に足り得ると判断して3.5/7MHz用を各数本製作しました。その結果、予想通りMVは非常に再現性が良く、製作記事として紹介できると判断して冒頭の記事となった。この記事でEHとMVとは兄弟アンテナであるが、EHの設置に際しては「主放射は同軸フィーダーからの放射であり、ラジエータはその補助でしかない」ことを念頭にMV以上の配慮が必要なことを理解していただければ幸いです。何年もの間、PCで眠っていた原文を2008.07.01にやっと翻訳でき安堵したところです。 辛口のおまけ

実験対理論

   実験者にとって、理論上の適切な予備知識は役に立ちます。 理論演習は実験よりも退屈ではあるが、通常はそれら両方を並行して行うべきです。私自身は実験を楽しむし、理論上の予測と実験結果が上手く一致すると、それが何であれ満足します。不一致のたびごとにその理由を考えます。どちらが悪かったのか、実験だろうかそれとも理論モデルだろうか、はたまた、その両方が完全でなかったとか考えます。アマチュアの測定は多分に持合せの道具に制約されます。そしてアンテナテストにおけるスペースの制約はなおのことです。それゆえに、AアンテナとBアンテナの比較テストが一般的で、不確定要素(実験で使った基準アンテナ)をもう一つ抱え込むことになる。アマチュアがやる全ての実験が本当に役に立たないことだろうか?そんなことはありません。恐らく受信のA/B比較テストでは3dBまたはSで半分の差がでると思われます。 それはそんなに悪いこと? モデリングによりデシベル精度の少しの差異がでる。 しかし、それは入力が絶対的に正しく(普通はそうではない)、アンテナを取り巻く環境は考慮しない場合で、 そして大地モデルは単なる推量に過ぎない時です。
この記事ではフィーダ放射の現象を取り扱います。 この現象は広く知られていますが、普通ハムはフィーダ放射を全アンテナ放射のほんの一部分と考えており、TVIを起こしたり放射パターンが歪む時だけにフィーダ放射を軽減しようとします。これ等の事実は大きくて優秀なアンテナの場合には当てはまります。しかし、アイソトロンとかMVまたはEHのように小さなアンテナでは、フィーダ放射がアンテナ放射を100倍(20dB)ほど上回ります。その事実は従来の理論で説明できないので、新方式の電磁放射理論を主張することになるのです。そしてそれは幾つかの新しい「理論」を生み、これまでの権威ある古典理論を改定するに至るのです。我々はこの記事で、古典理論の見地からそのフィーダ放射を考察してみます。定評のあるソフトを使ってフィーダ放射をモデル化してみます。そして考察から得られた数値結果と実験から得られた結果を比較してみます。我々の検討対象は2つの「小さな」アンテナ、すなわちMVとEHアンテナに限定します。その2つは、フィーダーから有効な放射を引き起こすと言うことにおいてお互いに非常に良く似通っています。しかし、両者には幾つかの相違があって、その違いは既存の問題を理解する上で役立ちます。

MVとEHの理論

MVアンテナの創始者Juergen Schaeferは二人のドイツ人科学者が理論的な原理を発見しNTZマガジンに発表したことに触れている。彼等は大変短い(0.02波長)モノポール・アンテナの放射抵抗が30Ωになることを発見た。そして、彼等はこの現象を短い放射器のある種の「dead」容量で説明している。残念ながらJuergenは彼の記事 antenneX で簡単に引用しているだけである。そんな訳で、我々は30Ωが計測されたテスト環境を想像するしかないのです。
EHアンテナについては、この記事を書いている時点で、その動作原理の理論的な説明の試みは2つしかない。 一つ目はこのアンテナの特許を取得した Ted Hart氏のもので、二つ目はLloyd Butler氏のものであった。Tedの理論はキルヒホッフ理論を犯すことから始まる。すなわち、彼は外部の位相回路により2端子回路網の電圧と電流の位相関係を変えられると明言しています。適切な「位相調整」がされればEHアンテナの放射抵抗は30Ωになると述べられています。Lloydの理論は同軸ケーブルのシールド外被をEHアンテナの第3の端子と見なしている。
彼の理論は 同軸のシールドが全放射の要素である見込みに注意を払いEHダイポールのコモンモードによる励起を受容している。その励起は少量だと主張しているが、定量的な結果は示されていない。 この理論は等価並列RC回路(約2,350Ω)についての放射抵抗が2π*377Ωと仮定している。そして等価直列RC回路の放射抵抗は、20mバンドでC=10pFと仮定すると、500Ω程度になる。両方の理論はEHアンテナの近傍において電界と磁界の適切な位相と振幅比を引き出そうとしており、唯一この方法でこのような小型アンテナがフルサイズ・アンテナの様に放射できると主張している。 それゆえに古典理論の適用を拒んでいる。 我々のゴールはDL7PE-microvert と EHの動作を古典理論のみに立脚して説明することである。
私がこのような道筋を試す最初の人でないことを明言しなければなりません。 Igor (Gary) Gontcharenko DL2KQ/EU1TT は彼の個人サイトhttp://www.qsl.net/dl2kqで自分がやった実験と考えについて解説しています(残念ながらロシア語のみ)。また、彼はMMANAモデリングの結果を示している。そして3モデルは本稿に出発点として使われています。 EHアンテナ・フォーラムの参加で多くの人がTedのアイディアを共有していなことが判った。特許について言えば、術数に長けている人は同じ結果に到達するものです。

嘘、馬鹿げた嘘および統計

エンジニアリングの観点から、個々の情報は最終的には見出しの3つのカテゴリーに分類できます。いや、それはほんの冗談だが・・、 我々は熱心なEHアンテナの愛好者の全主張を一通り注意深く調べなければなりません。残念ながら、全ての主張が実験で確かめられてはいません。もっとも重要なことはEHダイポール自身が1/4λ長程度の同軸給電線による標準的な設置をしたEHアンテナと同効率で放射することです。ヤフーEHアンテナ・フォーラムに参加することで明らかになったのは、その“事実”は“未確認事項”のグループに移動させなければならないと言うことです。 Conny Winrot, SM5DCO, のテストはその主張に雑多な結果を与えてしまった。 何故ならそのテストがA/B比較テストでもなければ、電界強度の絶対値測定結果でもなかったからである。他の人が行った実験、すなわちEHアンテナの近傍に電流バランを置くとバランが温まり10dB程度の放射ロスが生じるのを発見した。
それでは、どんな事実について説明すべきか? 最も重要な事実は標準的に設置されたEHアンテナは結構良く動作します。1/4波長の垂直アンテナと同等もしくはそれ以上の性能である。この骨の折れる作業はすでにどえらくチャレンジングだが、我々なりの副次的な結果が得られるのを期待しています。 MVアンテナの効率はダイポール比-6〜-12dBと主張されています。

最も退屈な事から始める

小さなアンテナがフィーダのコモンモード電流によりどれだけ放射するのかを明らかにしようとしているので、コモンモード電流とは何で、それは何処からやってくるのかを明確にしなければならない。
普通、同軸はFig. 1のような2端子デバイスと考えます。A部.、入力端子の両端に信号源を接続し、出力端子の両端に負荷を接続します。 各2端子ポートは一対回路の様に動作します。 すなわち、一方の端子に流入する電流はその片方の端子がら流出する電流に等しくなります。その様子はFig. 1に示されています。 B部、ここで IDS は信号源側の差動電流を、そして IDL は負荷端側の差動電流を表します。同軸ケーブルのどの位置で切って見ても同じ状態になります (Fig. 1, C部): 電流 IDM、 同軸ケーブルの内部導体を通って負荷に向かう電流は同軸のシールドを通って戻ってくる電流と同じです。しかしながら、その値は入力端の電流値と異なることがあります。電流の違いは負荷がケーブルのインピーダンス特性にマッチしない時に起きます。最後に、スキン効果現象により、このモードにおける全シールド電流はシールドの内側を流れます。そして、同軸ケーブルを外部からみると電界も磁界も漏れ出てこないことが判ります。 これが意味することは、もし同軸ケーブルをコイル状に巻き束ねても 信号伝送に何等差異が起きないと言うことです。このモードにおける入力電圧は同軸の内部導体と外部シールドの電位差になります。このモードは通常、差動モードとして参照されます。

Fig. 1. 同軸ケーブル中の差動信号

その方法が同軸ケーブルで信号を伝送する唯一の方法ですか?いいえ、もちろん違います。もし、2つの入力端子を接合し、さらに出力も同様に接合するならば Fig 2 に示すように同軸のシールド外皮の直径に等しい一本の導体が得られます(Fig2 A)。もし導体の片側に信号源を繋ぎ、反対側に負荷を繋ぐならば (Fig2 B)、両方とも大地に対して、信号は信号源から負荷へ伝送されます。ここにおいて、 ICS は電圧源側におけるコモンモード電流で ICL は負荷側におけるコモンモード電流を表しています。これが同軸ケーブルを使う上で良い方法ですか?いいえ、全く違います。この目的だと単なる単線で間に合います。しかし、このモードでは同軸線のシールドから放射をします。なぜならシールドの外側にはシールドがないからです。このモードは2つの入力端子で入力信号が共通なので、通常コモンモードとして参照されます。低周波においてはコモンモード電流の一部は内部導体にも流れますが、高周波においては同軸外皮のシールド表面にコモンモード電流は集中して流れます。(Fig2 C)がその状態を表しています。ここで ICM はケーブル中間部におけるコモンモード電流です。入出力において2端子接続した状態で、コモンモード電流路は完全に差動モードの電流路と独立していると考えて構わない。.

Fig. 2. 同軸ケーブル中のコモンモード信号

殆どの場合、両モード共に同一同軸ケーブル内に存在しますが、各々が違った振舞いをします。差動信号はバランの影響を受けないが、コモンモード信号はバランのコモンモード・インダクタンスを通過しなければなりません。 差動信号は同軸内部の材質によって決まる低い速度で伝播するが、コモンモード電流は光速で進む。前述のように差動電流は同軸内部に完全に遮蔽されるが、コモンモード電流は簡単に電磁波を放射する。
はしごフィーダを思い出すと良いでしょう。はしごフィーダにもコモンモード電流は存在するが、その対称性の特質により電流は1/2ずつに分割され、各々はフィーダ上を同一方向に進行します。
ハムの間には放射するフィーダは熱くなると言う誤解があります。これは根拠のない話です。差動信号を50Ωケーブルで送る時のロスの1/4はシールド線で残りの3/4は芯線で生じます。大概の場合、コモンモード電流は差動電流とおおむね同じ値になりますので、もしもケーブルをコモンモードだけで使う場合の許容電流値は4倍になります。もし、ケーブルをコモンモードと差動モードの両方で使う場合は許容電流値の1/4に落して使う必要があります。

等価モデルの導出

インターネット上に上手く設置できたEHアンテナの写真が沢山あります。 Ted Hart がアンテナを1/4波長の高さに上げることを推奨したので、普通は同軸ケーブル・フィーダの長さは1/4波長前後になっています。フィーダは多くの場合アンテナから下に降ろされ、そして水平に相当の長さで引き回されます。幾つかの設置例ではトランシーバの近くに電流バランを配しRFエネルギーがシャックに戻ってこないように設置している。 これをモデル化するのは不可能に近い。モデル化を簡素化するのに、最初にDL7PE-microvert についてモデル化を行い、その後そのモデルをEHアンテナに拡張します。
先ず最初に、Microvert を注意深く見ます。 Fig. 3の左側は Microvert を示しています。EHアンテナと違ってフィーダはバランで分割され2部分で構成されます。Microvert に近いフィーダから放射があると思われるが、RF源は1個しかないし信号源は間違いなく差動でフィーダに接続されています。なので、最初の仕事はこのシステムにおける等価コモンモード源を見つけ出すことになる。

Fig. 3. DL7PE-Microvert とモデル

差動信号源をコモンモード信号源に変換するのに使った手法は負荷側に信号源を引っ張り出すテクニックです。もし、ある周波数でアンテナがフィーダとマッチングするならば、信号源からはアンテナは純抵抗に見える。 この状態ではフィーダを長くしても短くしても負荷は同じように見える。この状態では同軸を流れる差動電流に何の影響も与えない。目的はコモンモード電流路に手をつけないことなので、フィーダを直に切ったり繋いだりできません。ケーブルを切る代わりに、信号源を負荷側に移動させシールドと芯線を反対側で接続します。このような方法を進めて信号源をフィーダの負荷端に移動させることで、フィーダをコモンモード電流用の専用路にすることができます。 Fig. 4 はその変換過程を示します。 A部、同軸ケーブルの左端に設地された信号源が接続されており、右端にはダイポールのような半対称の負荷が接続されています。 B部、信号源を負荷との中間部に移動させた状態を、C部に信号源を負荷端まで移動させた状態を示します。

Fig. 4. 信号源を負荷端に向けて移動させる

得られた回路は最初の回路と本当に等価だろうか?実のところそうではありません。最初の回路においては、差動信号にはケーブルによる減衰と遅延が生じます。 通常、RF帯における減衰は小さく信号源の電圧を適切に調整することで補正できます。遅延もまた考慮できます。しかし、それはRF信号源のみがシステムに存在するときで、その信号源から負荷への電路が1本のみ存在する場合です。その場合には絶対位相を考慮する必要ありません。
このような手法を Microvert に適用することで、 Fig. 3 の真ん中のモデルが得られます。 Microvert の等価回路から何が判るだろうか?そうですね、皆さん非対称垂直ダイポールに気づくと思います。上半分は短く目的周波数での共振させるための直列コイルがあります。ダイポールの下半分は0.2波長ほど下がった所にバランがあります。もし、そのインダクタンスが無限に大きければ、ケーブルをそのポイントでカットできます。もし、高いだけならばバランの値とケーブル長を考慮しなければなりません。 実際には 0.2 波長より少し長くします。そんな訳でダイポールの下半分は1/4波長に近い値になります。
得られたモデルから Microvert の入力インピーダンスを見積もれるか?Fig. 3 の右側の図を見て下さい。信号源からは上側のモノポールと下側のモノポールの2つの放射インピーダンスがシリーズに接続されているように見えます。上部モノポールについては小さな値の放射抵抗 (RRAD) に直列のpFオーダーの (CRAD) が存在すると思えます。もし、共振させるためのコイル (LCOIL) を追加すると、その容量はキャンセルされるがコイルによるロス (RCOIL) が生じます(単位:Ω)。一方、下部モノポールの放射インピーダンス (RCP) は純抵抗性で 25 から 30 Ωになります。多少リアクタンス性であっても上部コイルの調整でキャンセルできます。30Ωの放射抵抗はMVアンテナのカウンターポイズの特性であってMVアンテナその物の特性ではないと結論付けられる。この点において Prof. F.Landstorfer と Prof. H.H.Meinke の意見に賛成できない。しかしながら、依然としてNTZ誌に掲載された彼等の記事に非常に興味を持っています。
上記の推定から正確な数値を得られないが、このアンテナの総合効率についての考えは次の通りです。Microvert自体の非常に小さな値の放射抵抗は無視しても差し支えないが、直列コイルのロスと十分に長いカウンターポイズの放射抵抗が直列に繋がっています。主要放射はカウンターポイズによって成されると考えられるので総合的な放射効率はどちらかと言えば高い。

モデル解析

さて、信頼のできる数値が必要になってきました。モデルは異なる直径の2本のワイヤー、一つの信号源および一つの負荷で構成されています。20mバンド用のラジエータは外形20mm、長さ31cmにカウンタポイズの長さは5.4mになります。これのモデルを MMANA に反映するのは単純で簡単です (DL7PE_2.MAA)。また、計算は1秒以内で終わります。電流分布の結果は Fig. 5 になります。 導電率を 1 mS/m に誘電率を 5 に設定したリアルグラウンドがカウンターポイズの下端から2m下方にあるとした場合、インダクタンス L=22.75 uH (Q=200として)とすることで入力インピーダンスが 38+j0.3 Ωにそしてゲインは Ga=-2.6 dBi、打上角は 22.6 度になります。これは期待通りの結果ですか?そうですね、これは1/4波長ラジエータに期待出来る値です。 Juergenの値と違いがありますか?彼はゲインが -6 から -12 dBd でカウンターポイズの周辺に非常に低いレベルの磁界があると主張しています。そして、カウンターポイズの一部を鉄筋コンクリートの陰にしても信号強度は変わらないとも言っている。Juergenの値は理想的なカウンターポイズ位置から遠く離れている場合は間違いないと思う。そして、カウンターポイズにもっと注意を払うならば、もっと良い結果になると思います。カウンターポイズ周辺の非常に低レベルの磁界についての彼の結論は多分、電界要素だけを見ていたために起きたと思われます。直列接続ゆえに、カウンターポイズ上部の電流値はMicrovert 下部の電流値に等しく、全体はFig. 5の様になる。

Fig. 5. MVのMMANAモデル

Microvert から EH アンテナに話題を変える前に他に何かありますか?ええ、あります。上図の様に特定のフィーダ配置におけるコモンモード・フィーダ放射の例を見ると、フィーダの放射部は1/4波長の垂直放射部でなされており、放射部下端のバランで分離され上端の低インピーダンスから給電されます。ここで逆の取り合わせをやってみましょう。もし、1/4波長ラジエータの下端を接地すると、ラジエータの上端のインピーダンスは数1000Ωになる筈です。それ故、マッチング回路が必要になります。 概略図は Fig. 6 の左側です。 モデル化においては、Microvertラジエータ下端のコイルはそのままにしてマッチング回路を等価信号源の一部とします (Fig. 6 右図)。MMANA モデルにおける変更点はカウンターポイズの下側を接地するだけですDL7PE_2a.MAA 。 L=36.2 uH (Q=200)とすると Rin=1957 Ω、 打上角29度の Ga=-2 dBi になります。 Fig. 7 に示すように接地ポイントで最大電流になります。より高い放射抵抗になるのでコイルロスは問題にならないがマッチング回路のロスおよび接地ポイントのロスを勘案しなければなりません。接地ポイントのロスを 50 Ωとすると (DL7PE_2b.MAA)、 Rin=1227 Ω、 Ga=-6 dBi、 L=27.9 uHになります。

Fig. 6. Microvert 接地型カウンターポイズ

Fig. 7. MMANA モデル 接地型カウンターポイズ

最終的に2つの1/4波長のカウンターポイズをL型に配したのを試してみましょう。最初の1/4波長を 地面に向かって垂直に垂らし、次の1/4波長を水平に張り送信機の近くで設置します (DL7PE_3a.MAA)。Fig. 8 はMMANA モデルと電流分布です。このカウンターポイズ両端は低インピーダンスです。 モデリングの結果は Fig. 9 で、別段驚くことはありません。垂直偏波の良好な放射 (Ga=0 dBi、 打上角25度)の傍に良好な水平偏波を、またF/B=4.2 dBの指向性が得られます。その他の数字として入力インピーダンス 32+j0 Ω at L=23 uHを挙げておきます。 これらの結果を念頭に EH アンテナを検討してみましょう。

Fig. 8. L形 1/4+1/4 波長接地型カウンターポイズ.

Fig. 9. 放射パターン 1/4+1/4 波長接地型カウンターポイズ付

EH アンテナのモデル

EH アンテナと DL7PE-Microvert で何が違うのだろう? 第一に、フィーダー部にカウンターポイズ専用部分がありません。第二に、放射エレメントとフィーダ間にマッチング回路があります。 そして第三に、短い対称ダイポールを形成する下部放射エレメントがあります。 どのように取り扱うか?Microvertでモデル化したように幾つかの簡単なフィーダー配置をモデル化できます。 最新の代表的なEH設置は1/2波長のフィーダー長で1/4波長のアンテナ高さです。2つの方式の位相/整合回路が考えられます。ひとつは "L"+"Tee" 回路で入出力に共通の端子があります。Microvertに追加したマッチング回路と同じテクニックを使えます。 そして先ず、EHダイポールの下半分をワイヤーメッシュで表現しないとなりません。 ワイヤーメッシュ・モデルにはその精度と所要演算時間が長くなる問題があります。 なので、フィーダと共に平行線に置き換えることにした。
Fig. 10 にあるDL2KQが用意したワイヤーメッシュの MMANA モデル: EH_2mesh_0.maa で作業を開始する。モデルは2つのシリンダーで構成されており、各々は直径2インチ、長さ6インチ、間隔は2インチです。シリンダー単体の入力インピーダンスは Zin=0.017-j1700 Ωで自由空間におけるワイヤーロスを無視したゲインは Ga=1.76 dBi です。このようなダイポールはQ=Xc/R=100000の理想的なコンデンサーになります。リアクタンスとしてコイル (Q=200)を追加すると次のように粗末な結果になります。 L=19.7 uH では入力インピーダンスは 9+j0 Ω、 ゲイン Ga=-25 dBi。これがフィーダーなしEHアンテナ・テストから得られるものです。

Fig. 10. EH ダイポールのワイヤーメッシュ モデル

上部ラジエータを太いワイヤーで置換えても殆ど変化はありません。 EH_1mesh_0.maa で L=20.15 uH とすると入力インピーダンスは 9.2+j0 Ω、ゲインは Ga=-25.2 dBi となります。その時の条件は前と同じで自由空間、ワイヤーロスなしです。両者の結果は非常に近いので、ワイヤーメッシュ・モデルと太いワイヤーでは大きな違いがないと言っても構わない。
それでは、EHアンテナ・モデルに同軸ケーブルを追加してみましょう。Ted Hart は1/2波長のフィーダーまたはそれの整数倍のフィーダーを使い送信機の近くで接地することを推奨しているので、アンテナ側が低いコモンモードインピーダンスになると予想します。大きなバランにより1/4波長で分離しても同じ状態になる。先ずそのケーブルレイアウトをやってみましょう。 Fig. 11の左側は初期の "L+T" EH アンテナ図形です。そして、右側は等価モデルでフィーダーの上端まで差動信号源を引き出しています。

Fig. 11. "L+T" EH アンテナとそのモデル

最後のMMANAモデルに一本のワイヤーを追加してFig. 12にある新しい EH_LT1qf_0.maa を得ます。コイルのインダクタンスをいじって入力インピーダンス 14.2+j0 Ω、ゲイン Ga=-3.5 dBi を L=15 uH とカウンターポイズ下端からリアルグラウンドまでが 1.5 m の条件で得られた。EH ダイポール単体 (-25 dBi)と比較すると、放射効率が 20 dB 以上増加です。DL7PE-Microvertの結果と比較すると、両者はお互いに似通っているのが判る。大きな相違点は入力インピーダンスにあります。EHアンテナの "L+T"図を子細にみると、それに対する想定理由を提案できます。上部ラジエータの直列コイルをそのままにして、コイル全体をその場所に移動させると、少し違ったモデル EH_LT1qf_1.maa がえられ、そして新しい数値、入力インピーダンス 28+j0 Ω、 L=21.9 uH時。ゲインは大きく変化しなくて、-3 dBi になる。

Fig. 12. EH アンテナ 1/4 波長非接地型カウンターポイズ

いよいよ、典型的な接地の EH アンテナを作図できます。もしアンテナ自体が1/4波長の高さならば、おおよそ1/4波長の垂直ケーブル部、そして1/4波長チョットの水平部を経由してシャックへ。フィーダー端末のトランシーバは適切に設置されているものと仮定しています。 Fig. 13にアンテナ略図と等価モデルを示します。

Fig. 13. EH アンテナ 1/4+1/4波長の接地型カウンターポイズ付

MMANA モデル ( EH_LT2qg_0.maa ) はDL7PE-Microver用に得た Fig. 8 に似ていますか?それらの主放射部分はほぼ同じなのでそれらのモデルからは類似の数値が得られると予想します。 EHモデルのインピーダンスの実部は 23 Ω、 L=22.2 uH 時そして打上角25度のゲインは-0.67 dBi になります。 Fig. 14は放射パターンで、Microvertの放射パターン Fig. 9 に酷似しています。

Fig. 14. 放射パターン EH アンテナ L形フィーダー

もし、EHダイポールの下半分をわーやー・グリッドから太い1本の置換えても (EH_LT2qg_1.maa)、上記結果とほぼ同じ結果になります。入力インピーダンスの実部は 22 Ω、 L=22.7 uH時、そして打上角25度のゲインは-0.56 dBi 。簡素化モデルの利点は計算時間が非常に短くなることと Fig. 15(上部のみ)に図示されているような明確な電流分布図です。

Fig. 15. 簡易 L+T EH モデルの電流分布

Fig. 15 よりダイポールの下半分の電流は上半分またはフィーダよりはるかに少ないことが判る。 低インピーダンスの上部フィーダがコモンモード電流の主要部を占めています。このことよりバランの値によってケーブル放射を減少出来ると考えた。バランの値はおおよそ-j2000 Ωのダイポール下半分の入力インピーダンスに比べて十分に高くないとなりません。標準的な "+j500" Ωのバランでは同軸のコモンモード電流に何等変化がありません。バランを追加したモデルは EH_LT2qg_2.maa です。バランの値を変え毎回上部ラジエータの直列コイルを再調整して調べてみると Fig. 16 の結果が得られます。この表より j2000 Ω以下のバランはフィーダ放射を抑えられないのが判ります。バランが正確に j2000 Ωで EH ダイポールのキャパシタンスおおよそ -j2000 Ωと共振して大変大きな入力インピーダンスになります。 j5000 Ωのバランはフィーダ放射を10数デシベルほど抑圧し、 j10000 Ωバランは EH アンテナとフィーダを完全に分離します。(言わんとしていることは、フィーダがアンテナ)

Fig. 16. バランの影響

L+L バージョン

これまでの結果は L+T と呼ばれるマッチング回路のEHアンテナから得られたものです。 L+L マッチの EH アンテナでも L+T マッチと同様の結果が得られるとの主張があります。これまでの手法はテスト済みなので Fig. 17 のモデルを簡単に得ることができます。ここで、EH ダイポール放射抵抗は非常に小さいのでEHダイポールはキャパシタンスだけに置き換えられています(上部ラジエータ、下部ラジエータ、2極間)。

Fig. 17. L+L 等価モデル

これらのキャパシタンス値を得るには、 EH ダイポールをコモンモードと差動接続でテストしなければなりません。コモンモード接続では CM をショートできるのでコモンモード・キャパシタンスは 2*CR になります。差動接続では (CM+CR/2)になります。2通りの MMANA モデル (EH_LL_0.maaEH_LL_1.maa) を作成して、 2*CR=8.87 pF および (CM+CR/2)=3.4 pFを得ます。それを解いて、 CR=4.435 pF および CM=1.1825 pFを得ます。これらの数値を元に SPICE を作成することは簡単に短時間でできます LL_0.sp。両方のコイルを 4 uH としてキャパシタンスを 5 から 35 pFに変化させ、そしてインダクタンスを 3.6 から 4.2 uHに変化させると最終的には C1=31.8 pF, C2=25.5 pF, L1=3.85 uH, L2=4.14 uHを得ることができます。このような条件のもとで L+L 回路は Fig. 17 に示されるように 50 Ω信号源から 30 Ω負荷への変換で 3 dB のロスを生じます。 -3 dB はSメータで0.5ですが、入力電力の半分がコイル(Q=50)で浪費されることになります。

辛口のおまけ

小型アンテナは本当に小さいか? DL7PE-microvertとEH アンテナを熟視すると、それらの実サイズが判って来る。Microvert は約 0.22波長で、 "標準" EH アンテナは最低でも 0.25 波長です。それら実サイズを考慮したとき放射特性が何か特別なことと思いますか?全くそんなことはありませんね!古典理論を形通りに適用すれば、同軸ケーブル中のコモンモード電流解析に統一手法でアプローチできることが判る。アンテナ・モデリング ソフトを走らせて、実験結果と無理なく一致する数値解析結果を得ることができた。様々なアンテナ構成において同軸フィーダの一部が放射エレメントになることが判った。アンテナ設計において意識的にフィーダー放射を使うことを考えても構わない。 -30-

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著者略歴
私はロシア、ウラル山脈にある小さな町で1962年(昭和37年)に生まれました。学校時代の最終学年にクラブ局 UK9FFO に加わった。そして前レニングラード電子技術大学の学生になった。私は学校のクラブ局 UK1ADR の大変アクティブなオペレータでした。しばしば、近くの山岳ハイキングクラブに救助隊の無線要員として参加した。西コーカサス山脈(海抜3000m)で UK1CAC/U6E を運用したことがあります。ラジオ技術者として大学を卒業してから、主にデジタル回路設計者として、組み込みソフト、それからアナログおよび高速デジタル設計に従事した。現在、小さくないアンテナに適した不動産を探している。


~ antenneX ~ May 2003 Online Issue #73 ~

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