最新デジモード・インターフェースの紹介
RTTYだけでなく全デジモード態勢でサイクル24を迎えよう!
日下 覚 2008.03.10
【 はじめに 】
筆者は自作のインターフェース(以下 I/F)で2001年にデジモードを初めて以来、10式以上のI/Fを自作した。今回ご紹介する2機種から必要最小限の機能を抜き出して、近号で、QSOにおける実用性と安定性に重きを置いた究極の自作を発表させていただく予定です。それでは以下に、多機能のメーカ製すなわちウクライナ製RigExpert Plusとアメリカ製(以下ナビゲータ)の2機種をご紹介いたします。ポピュラーなデジモードPSK31は勿論のこと、FSKによるRTTYにも、CWのマクロ運用(メモリー)にも対応できます。
【 機種概要 】
RE Plus (以下+)とナビゲータは外観と実装形態は大きく違う(写真1・2・3・4・5)がともによく似た構成(図1)なので兄弟のようなと言えます。これの背景には、使用するキー・デバイスの選択の余地が少ない事と、組合せなければならないデジモード・ソフトからの制約によるものではないかと推測しています。
両機種ともにサウンド用のTI(テキサスインスツルメント)社のUSBコーデックPCM2900シリーズ、またUSB経由の通信にはFTDI社製の定番ICを使っている(近号で紹介する予定の自作I/FもTIとFTDIのICを使う)。USBケーブル1本でPCとI/Fを接続し、Dサブ25P ⇔ 機種対応のI/Fケーブル(図4・写真6)で各社のトランシーバ(以下TRX)と接続するので、非常にスッキリとした接続になる。機能は至れり尽くせりでデジモード関連の TRX機能をフルに活用できる。両機種ともに2チャンネルのサウンド・コーデックをサポートしており2波同時受信機能を備えたハイエンド機IC-7800 / FTDX-9000にもフル機能で対応できる。
RE+はIC-7800に照準を合わせて光I/OのS/PDIF(Sony/Philips Digital InterFace)の端子を備えている。MixW(Ver. 2.18)と組合せた時、両機種とも煩雑なポート設定を自動的にやってくれる。また、 MixWのみならずMMTTY、MMVARIあるいはHRDなどのデジモード・ソフトとも組合せが可能である。AFSでなくこだわりのFSK RTTYにも、CWパドルとWinKeyerおよびPCキーボードを混用のCW運用も可能です。
FSKへのこだわりを捨てれば、AFSkでCW、RTTYからPSK31更にはOlivia、SSTVなどMixWがサポートしている全デジモードを同一のGUI(操作画面)でシームレスに画一的な周波数とモード変更などが可能になる。
【 購入先 】
どちらも次のネット上のサイトからカードまたはPayPalで購入できます。商品は発注後おおむね1週間で到着します。RE+はOM諸氏が使い込んでおり、日本でも実績があります。ナビゲータはRE+より発売が遅く(昨夏)、日本での実績はまだ少ない。RE+ ナビゲータ:http://www.usinterface.com/
【 機能説明 】・・・・図2・3も合わせご覧ください。
1、TRXオーディオ I/F
TRXオーディオI/FとはTRXのオーディオ出力(外部スピーカ端子またはAF出力)およびTRXのオーディオ入力(マイク端子またはデータ入力)とPCのオーディオ入出力を適正レベルで接続することです。このオーディオI/F機能とPC(各種ソフト)により、デジモードの運用、音声の記録再生、受信信号のレベル測定ができるようになります。入力(2チャンネル)と出力レベルは本体前面にあるボリュームで調整出来ます。
2、光 S/PDIF 入出力(RE+のみ)
RE+では、アナログオーディオI/FのみならずIC-7800のような最新鋭TRX用に光S/PDIF入出力を備えています。光ケーブルはステレオ用のものが使えます。
3、各TRXとのCAT I/F
CAT(いわゆるリグコン)システムとPCソフトにより、TRXの運用周波数、モードおよびその他の機能の制御ができるようになります。普通、最近のTRXはCAT I/Fに使えるシリアルリンク(TTLとRS232Cの両レベルに対応)を備えています。CATI/FのポートはPCソフトによってCOMポートとして見えます。
4、FSK 出力
FSK(周波数シフトキーイング)は主にRTTYで使われており、ハムの世界では文字情報を送信する一般的な手法です。大概のTRXは安定かつ明瞭なRTTY信号を発生できるFSK変調器を備えています。専用COMポートがFSK出力に割り付けられます。FSKのボーレートと極性は固定されるがジャンパーで再設定出来ます(RE+)。ナビゲータではソフトによる設定方式です。
5、PTT および CWキーヤー
PTT(送受切替) または CWキーヤー入力によりTRXの送受切替を行います。 外部制御機器として PTTペダル, CWパドル, バグキー, TNC またはPCが使えます。両機種ともに、PTT および CW 出力は専用COMポートの RTS と DTR に割付られています。
6、スケルチ入力
エコーリンクのようなソフトでは、受信信号の有無の検出、すなわちスケルチ入力を備えたI/Fが必要です。両機種ともにスケルチ入力はPTTとCW出力に使うCOMポートのDCD端子に割付られます。
7、内蔵エレキー(シングルまたはダブルパドル使用可)
キーヤーは倒すパドルの方向に従って短点又は長点を発生します。ダブルパドルでのスクイーズ動作も可能です。CWの速度はソフトの設定または全面パネルのボリュームで行えます。RE+では有名なWINKEYマイクロコントローラー(Ver. 1.0)を、ナビゲータでは同Ver. 2.1)キーヤーとして搭載しており、WINKEYコントローラー用に専用のCOMポートが割り付けられます。
8、AUX RS-232C端子 (ナビゲータのみ)
古いPCには必ず付いていたシリアル通信用のポートと同じで、2台目の YaesuまたはKenwood機のリグコンに使える筈である。
9、AUX CI-V端子 (ナビゲータのみ)
上と同様に2台目のICOM機のリグコン用に使える筈である。
【 概略仕様 】
1、一般機能
・デジモードおよび音声の録音再生用のTRXオーディオインターフェース
・S/PDIF 光出力
(RE+のみ)
・CAT システムのサポート
・FSK 出力
・内蔵CW キーヤー(WINKEY)
・USB 端子、USBマウス等に使用可能
・RS232端子 (ナビゲータのみ)
2、PCとの接続
・USB接続 (一本)
・USB端子から電源供給(最大消費電流100mA )
・外部電源不要
3、TRXとの接続
・Dサブ25ピンケーブル1本によるTRXとの接続
・殆んど全てのTRXに接続可能
4、オーディオインターフェース
・グランドをデジタル回路と分離
・最大入出力電圧 1V
・入出力サンプルレート: 8 ~ 48 kHz (S/PDIFモードでは32KHz, 44.1KHz 又は 48KHz)
・16-bit DAC/ADCの使用
・レベルは基板上のジャンパー(RE+)、ソフト設定(ナビゲータ)及び前面のツマミにより調整可能
・デジタルインターフェース用に標準S/PDIF 光コネクターを装備(RE+のみ)
5、CAT インターフェース
・シリアルポートのボーレート: 300 ~ 115200 ボーに対応
・電気的互換性: RS-232, CI-V, TTL または
逆極性TTL (ヤエス, アイコム, ケンウッド, Ten-Tec,
Elecraft および JRC)のTRX
6、PTT/CW 出力
・PTT 出力: オープンコレクタ、 TTL レベル
・CW 出力: オープンコレクタ、 ソフトかWINKEYによる
・最大シンク電流:50
mA
7、FSK 出力
・オープンコレクタ出力
・ボーレートは基板上のジャンパー(RE+)、ソフト設定(ナビゲータ)で設定可能(工場出荷時:45.45ボー)
8、システム条件
・デスクトップかラップトップのペンティアムPCでUSB 1.1 又は USB 2.0 対応機
・OSはWindows
98/ME/2000/XP/Vistaのいずれか (PCに詳しい人以外Vistaはお勧めしません)
図2 前面パネル
図3 後面パネル
1. SPEED - WINKEYキーヤーのCW速度調整ツマミ、ソフトにより使用不可にできる。
2. ON - ドライバーをPCにインストールしてあって、リグエキスパートプラスをPCに接続すると点灯します。
3. CW - CWモードで送信時に点灯します。
4. PTT - TRXが送信時に点灯します。
5. CAT - CATデータがTRXとPCの間でやり取りされている時に点灯します。
6. FSK - リグエキスパートプラスがFSKデータを出力している時に点灯します。
7. IN1 - チャンネル1入力レベル(メインRXオーディオ)、デジオーディオ(S/PDIF) には効かない。
8. IN2 - チャンネル2入力レベル(サブRXオーディオ)、デジオーディオ(S/PDIF) には効かない。
9. OUT - 出力レベル (TRXへのオーディオ)、デジタルオーディオ(S/PDIF) には効かない。
10. IN - S/PDIF 光入力
11. OUT - S/PDIF 光出力
12. TRANSCEIVER - Dサブ25ピン TRXコネクター
13. PADDLE - CW バドル入力、3.5φステレオ・ジャック
14. USB OUT - USB ハブ出力、USBマウスなどのUSB機器を接続出来ます。
15. USB - PCのUSB 端子に接続します。
【 ⑫ TRXコネクター(Dサブ25ピン)ピン・アサイン 】・・・表1は接続ケーブルを自作する時に有用。しかし、製作してみると分かるがケーブルの製作は煩雑で間違いやすい。本体を購入時にケーブルも所有TRXに合わせて購入されるのをお勧めします。
表1 TRXコネクターのピン・アサイン
ピン 番号 |
端子名称 |
備 考 |
1 |
FSK_OC |
FSK オープンコレクタ出力 |
14 |
FSK_PULLUP |
プルアップ抵抗4700Ωを介して+5Vに接続 |
2 |
DIT |
CWパドル入力、接地で短点 |
15 |
DAH |
CWパドル入力、接地で長点 |
3 |
VCC |
+5V出力 (USB用電源) |
16 |
PTT5V |
TTLレベル PTT出力 (5V:送信、 0V:受信) |
4 |
CW_OC |
オープンコレクタCW出力 |
17 |
PTT_OC |
オープンコレクタPTT出力 |
5 |
FSK12V |
リグエキスパート用12V FSK出力、リグエキスパートプラス用DCD入力 |
18 |
12V_MAX |
+12V出力 (MAX232チップにより発生) |
6 |
SPK_TRCVR2 |
TRXオーディオ出力 (スピーカ)、サブ受信機 |
19 |
RXD_OE * |
シリアル出力 (5Vレベル)、この入力をアクティブにするにはRXD5VをVCCに接続 |
7 |
CIV_IN |
CI-V入力 (ICOM製TRX)、プルアップ抵抗4700Ωを介して12V_TRCVRに接続 |
20 |
12V_TRCVR |
VCCに接続 |
8 |
CIV_OUT |
CI-Vオープンコレクター出力 (ICOM製TRX)、CIV_INに接続 |
21 |
CO_PULLUP |
プルアップ抵抗4700Ωを介して+5Vに接続 |
9 |
TXD12V |
RS-232互換シリアル出力 (±12Vレベル) |
22 |
RXD12V |
RS-232互換シリアル入力 (±12Vレベル) |
10 |
TXD5V * |
シリアル出力 (5Vレベル) |
23 |
RXD5V |
シリアル入力 (5レベル) |
11 |
GND |
デジタルグランド |
24 |
GND |
デジタルグランド |
12 |
SPK_TRCVR |
TRXオーディオ出力 (スピーカ) |
25 |
MIC_TRCVR |
TRXオーディオ入力 (マイク) |
13 |
AGND_TRCVR |
オーディオグランド |
1、オーディオ入出力
・SPK_TRCVRはTRXのスピーカ出力またはライン出力(AF出力)に接続します。
・MIC_TRCVRTRXはPCのマイク入力またはライン入力に接続します。
・AGND_TRCVRはTRXのグランドに接続します(TRXと最短の接続を心掛けてください)。
・PCの信号とTRXオーディオ信号をトランスにより直流的に分離しています。これはグランドループでノイズが混入するのを防ぐためです。
2、FSK出力
FSK_OCはオープンコレクタ出力で、最大シンク電流は50mA (BC817 NPNトランジスタ使用)。このピンをFSK_PULLUPに接続するとTTLレベル出力が得られます。
3、PTTおよびCW出力
PTT_OCおよびCW_OCはオープンコレクタ出力で、最大シンク電流は50mA (BC817 NPNトランジスタ使用)。PTT5VはTTLレベルのPTT出力(送信時5V、受信時0V)で、最大出力電流は5mAです。
4、CWパドル入力
短点、長点の両入力ともに4700Ωで+5Vにプルアップされています。
5、シリアル入出力
両機ともに、様々な信号レベルのシリアル入出力に対応しているので、殆ど全てのトランシーバーに接続出来ます。個々のTRXへの対応にはDサブ25ピンコネクタの幾つかのピンをショートする必要があります。
RS-232互換モードはMAX232 I/Fチップから供給される±12VレベルのTXD12VおよびRXD12Vラインを使います。
CI-VモードはCIV_INおよびCIV_OUTを使います(両方のピンをショートしてください)。CIV_INは内部で4700Ωを介して12V_TRCVRに接続されています。12V_TRCVRはVCCと接続してください。
TTLレベル(5V) モードはTXD5VおよびRXD5Vを使います。 信号極性はRS-232モードと逆です。
更に別のTTLレベルモード(信号極性はRS-232モードと同じ)はCIV_OUT出力(CO_PULLUPに接続のこと)およびCIV_IN入力(12V_TRCVRはVCC出力に接続のこと)を使います。このモードではRXD_OE入力を使ったほうが良い(RXD5VはVCCに接続のこと)。
【 I/Fケーブル 】
図4はIC-7800用のケーブルの配線図です。写真6はIC-756シリーズ用の外観です。各機種の配線図は前出のURLから見つけられます。その情報によりI/Fケーブルを自作するのも可能です。
図4 IC-7800用I/Fケーブル
写真6 I/Fケーブル外観
【 接続 】
図5 標準的な接続図
両機種ともPCとはUSBケーブル1本だけで接続します。また、TRXとはDサブ25ピン先バラケーブル(各社の各機種に対応するコネクター付き)で接続し、CWパドルはパドル専用の端子に接続します。CAT経由でのPTTをサポートしていない機種(主として旧機種)には、RS-232C時代の常套手段であったPTTと同様の信号・方法で送受の切り替えができます。FSKによるこだわりのRTTYも送信可能です。CWパドルはエレ・キ-に繋ぐ感覚で接続・運用ができます。
【 ドライバーのインストール 】
RE+およびナビゲータともに同梱のCDからFTDI製のUSB ⇔ RS-232C変換ICとUSB HUBのドライバーをインストールします。そのCDをトレーにマウントすればインストール・ソフトは自動的に起動しますので、後は英文のメッセージに従って対象ソフトのボタンをクリックするだけでOKです。インストール後、念のためデバイスマネジャーを開いて写真7または写真8を確認しておきましょう。ポート番号は必ずしも写真のようにはなりません。ナビゲータではその番号と割当機能名をメモしておくのが良いでしょう。RE+では写真9の情報が得られるソフトが同梱されていて親切です。
写真7 RE+ 写真8 ナビゲータ
写真9 ポート番号と機能 (変な日本語を直さなくては!)
【 各ソフトでの設定 】
RE+またはナビゲータを接続してMixWを起動すると、写真10の英文メッセージがポップアップしてきます。ここで「はい」ボタンを押します。MixW2.18は両方の機種のポート設定を自動で行う機能を備えているので、煩わしいあるいは紛らわしいポート設定で悩むことはありません。国内で非常にポピュラーなMMVARIと世界的に使われているMMTTYとの組合せでは手動でポート設定を行う必要があります。ご存じのようMMシリーズはCOM8を超えるポートはサポートしていません。ところがドライバー・インストール時の状況次第ではRE+またはナビゲータ用にCOM8を超える番号が割り振られる可能性があります。そんな場合は、ポート番号の書換え機能を使って8番より若い番号にする必要があります。サウンドカードのクロック調整はデジモード専用機なので基本的に不要です。念のため手元の2台をチェックしたところ、何れも50ppm以内の補正値で(写真 11)、非常に優秀です。
写真10 MixW起動時のメッセージ(I/F導入後一度だけ出る)
写真11 クロック調整
写真12 リグコントロール
【 あとがき 】
写真1 RigExpert Plus(上)とNavigator(下)の前面
写真2 RigExpert Plus(上)とNavigator(下)の後面ナビゲータは全ての安全規格に準拠、RE+(シリアル番号277)の安規状況は不明!
写真3 RigExpert Plus(上)とNavigator(下)の側面上がRE+で板金ケース、下がナビゲータでアルミ押出材で頑丈そのもの!
写真4 RigExpert Plus内部最近の設計・製造手法でスッキリと仕上がっている
写真5 Navigator内部
ゆったりとした作り、いかにもアメリカ的!