フィルムからビデオへ!

   VO-3800はENG(ニュースのビデオ取材)を可能にした画期的なポータブルVTRである。テープ幅は3/4インチで、基本的にはカメラマンとVTR担当と2人運用である。1976年7月4日のアメリカ独立200周年祭に向けて参加した日本丸にも積まれて行きましたし、その他そのころのめぼしいイベントに駆り出された筈です。記憶と言うのは怪しくて、ニクソン訪中にも使われたと思ってたが訪中が1972.2.21でそのころVO-3800はまだ形になっていなかった。

初めてのダイレクトドライブ

   それまでビデオ回転ヘッドはベルトドライブが定番であった。このモデルで初めてブラシモータの回転軸に上ドラムとビデオヘッドを取り付け、モータ回転を速度・位相制御してビデオ信号をテープに書き込んだり読み出したりする寸法であった。実はその構造に大きな問題が潜んでいるのを誰も知らなかった。

外人部隊

   当初、このモデルは家庭用に企画され社外で設計が進められていた。それとは別に1973年前後に会社は膨大な数の技術者の中途採用を敢行した。折しもビデオ業界再編の嵐の中、厚木には純粋培養の子飼い社員数以上の外人(社外)がかき集められたのでした。そのドサクサに紛れて潜りこんで以来、ず〜っと厚木で会社生活を送った。
厚木スピリットと言う本が最近発行されたが、古参厚木っ子にとってはチャンチャラおかしい内容であった。都合がいいように実態が歪曲されている、仕方ないと言えば仕方ない。何故なら御用記者の提灯記事だものね!真の厚木スピリットは外人部隊の血が交じることで醸成されたのは紛れもない事実である。とにかく厚木は社内的に異端であった。本社が仕切りきれない、言うことを聞かない軍団であった。それ故、金の切れ目が縁の切れ目、上納金が目減りしてきたら途端に陰湿な虐めにあった。個人の怨念で仕打ちされているような感覚を持った。甚だ残念であったが、会社とはそんなものと捉えていれば腹が立たない!

リハビリ

   入社前の2年間は気侭なフリーター稼業でした。寅さんよろしく、静岡以北北海道までの200社ほどを訪ね歩いた。秋田ではコテコテの浪速人とこれまたコテコテの秋田人の通訳をやったことがある。今日では考えられないことですが、これは本当の事です。そんなこんなで紋々(タツ−とも言う)を入れまくった職人連中とも現場仕事をやった。この機種でリハビリをさせてもらいながら設計をやったのである。鷹揚なトリートメントに改めて感謝です。

DTL

   大概の人はDTLそれ何?だと思います。Diode Transistor Logicと言えば判る人も出てくると思う。この世界初のENGマシーンのシステムコントロールはDTLで出来上がっています。当時ロジックICのハシリだったと思う。この後の機種からTIなどのロジックICでシステムコントロールをやるようになった。陳腐なツールではあるが非常に有用なブール代数とタイミングチャートを駆使してまとめた記憶がある。今日だと100円のICで設計できるかもしれません。技術の進化はほ〜んとに速い!

戸塚カントリー

   M御大はゴルフがすこぶる上手だった(と思う)。このVO-3800が完成して暫くの後、名門戸塚カントリーで開催されたプロアマチャリティーで自ら使わざるを得なくなった。御大曰く、設計者は自分が設計した製品の使い勝手を身をもって体験し次機種にフィードバックするように!当時はVTRもカメラも大飯食らいであったが、反面バッテリーは鉛で非力であった。因って以て事前に各ホールにバッテリーを配ってゲームの邪魔にならない所へ隠しておいた。M御大のセカンドショットがグリーンに乗った所を撮ったのを覚えている。あのテープは今何処にあるのだろう?村上隆プロのティーショットには度肝を抜かされた。駆け出しの青木プロが銜えタバコでウロウロしていた。ホンダの創業者のパーティーをフォローした。しかし、ここにその時の印象を書くのは適切でない。

NASTRAN

   VO-3800の画が何となく落ち着かないと言う問題が持ち上がった。M菱から転職して来ていたIがテープの縦振動(進行方向)が原因でないかと仮説をたてNASAが開発した振動解析ソフトNASTRANでテープ走行系のシミュレーションをやった様だが結果は知らない。

軸共振

   学生時代にM菱の小牧で飛行機の組立実習をしたことがある(上のIとは別の)Iが軸共振が画の落ち着きをなくしていると仮説を立てた。即ちモーターのトルクリップル(コギング)によってモータの回転子とモーター軸および回転ドラムで構成される共振構造が揺すられ、ドラムはその共振周波数でねじれながら回転していると予測したのである。Iは共振の各要素の物理量を計測し、軸のコンプライアンスを電気回路のインダクタンスに回転子とドラムの重量をキャパシタンスにコンバートして等価電気回路を導出した。非常にマズイ共振周波数になっていたのを軸を柔くして落ち着きが出る低い周波数に共振を動かすことで対策とした。ともかく、メカ屋の両Iは信頼できると思ったものです。

めだかノイズ

   モータが回転を始めるとモータの軸はモータ・ケースとの導通が無くなります。そうすると、ブラシモータの火花が画面上にランダムなめだか状のノイズとなって見えた。どう言うモデルを仮説したか覚えていないが(でっちあげだったと思う)、対策は軸アース取る、モーターに電源フィルターを挿入、RFトランス表面に導電塗料を塗布の三つを施した。メカ屋のAと上司Kの協力を得て対策の効果に確信を持った。この対策は実用新案として効力を発揮した。この後、続々登場してくる各社コンシューマVTRにこの軸アースの特許が使われたので、特許戦略上は武器だったと思われる。ははは、いくばくかの報奨金で権利は会社が所有する内規です(どこも同じだと思うが・・)。

ヘリを飛ばす

   夜9時頃だったか船舶電話が掛かって来た。アメリカの独立200周年祭に参加するために房総沖をハワイに向けて航行中の日本丸に同乗しているNHKのクルーからだった。VO-3800が壊れた・・・・、すわー一大事!ドラムにつけてある位相検出用のPGが取れてしまった様だ。次の日ヘリで修理部品を運んで貰って事なきを得た。ハワイについた時に別の問題報告があった。熱でバッテリーが膨らみコンパートメントから抜き出せなくなった。これにどう対処したか覚えていないが、多分、最後までそのまま使ったと思う。